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August 27, 2004

ペピン結構設計「ポエムの獣」

◎上質で味わいのある芝居 謎を問いかける仕掛けも
 ペピン結構設計「ポエムの獣」公演を8月19日、横浜・馬車道のBankArt1929で見ることができた。期待したとおり、上質で味わいのある芝居だった。いまどきこれほど演劇的な台本にお目にかかるのは珍しい。役者もしっかり役に馴染んでいて、明治時代に建てられた旧銀行支店という特殊な空間を生かした舞台美術の仕上がりとともに、作者・劇団の才能がうかがえるステージだった。

 筋書きは同時進行が多くて要約しにくいけれど、あまりはやらないコンビニを舞台に、2組の男女関係が同時進行で展開される。まず若い男性店員が、お客として現れたグラビアアイドルに迫られる話、それに絵を描く動物好きの女性店員が遊び人風の男に惹かれていく話。どちらも女心が分からない男が、共通項になっている。

 例えば、迫られながらうつむいたり、「好みではない」とつい答えるうぶな男、指輪を女性の店員に差し出しながら、同棲中と思われる女性とあっけなく結婚するヒモ(遊び人)…。やるせない恋心を扱いかねたり、もてあそんだり。このあたりのやりとりは、こころ憎いばかりのたたみ方である。

 といってしまえば、ごくありきたりの恋愛話になるけれど、この舞台では基本的に男女がカウンターを挟み、金銭のやりとりに媒介される関係として設定されている。こちら側とあちら側。今の世の中を貫く大原則だが、芝居はこれを何度か意識的に破ってみせる。一度は女生徒が衣類を脱いで男に迫るとき、「あちら」と「こちら」を分け隔てているカウンターを一気に乗り越えるのだ。二度目はお客として現れたグラビアアイドルが店員に迫るとき、やはりカウンターを乗り越えて突進する…。乗り越えるのはどちらも女の側。自分で選択し、突き進んでいく-。

 それがぎらつかず、上質の舞台空間を形作るのは、異性関係の間に相互了解の世界が存在することを登場人物が疑いもなく共有しているからである。切ない恋心は相手を思いやる心、それが空気や水のように当たり前と信じられる世界の了解、と言い換えてもよい。

 では、うぶな男とヒモ、つまり男たちは垣根越えが可能なのか。
 芝居は2つの道筋を示唆している。うぶな男は「しっぽ」を取り去ることによって、遊び人はカウンターの「あちら側」から、女性店員のいる「こちら側」に入り込むことによって。しかもそれは2組の男女が「花火」を楽しむ場面で表現される。短いかもしれないが、至福の瞬間として-。というよりも、至福の瞬間ははかないからこそ輝くのだと分かっている同士が、互いに沈黙しながら花火を見つめる濃密な間合いとして提示されている。

 会場は明治時代の銀行建築のせいか天井が高く(約7m)、4本の円柱がフロアーを横切っている。この柱を3本使い、ゆるくカーブする2つのカウンターをフロアーにそのまま作り上げた。客席はステージの、つまりカウンターの両側に配置された。会場の3方に設置されたスクリーンと中央の白い円柱に花火の映像が投影される。美術・装置・映像が一体になった印象深いシーンだった。

 相互了解の心的な空間を日本的といってしまうのはたやすいが、人が人である基礎的な条件に関わるということも出来る。舞台はしかしそこまで言葉の形にせず、また「こちら」と「あちら」の設定も、うぶな男が着けている「しっぽ」の意味も特に解釈を施さず、謎を仕掛けたままステージに載せている。ぼくは終演後、気持ちはしっとりしながら謎解きを求められたような、不思議な感情に襲われた。

 役者は芝居の流れに乗り、それぞれが役割を果たしている。ヒモ兼遊び人役の岡本祐介の軽い演技は楽しめた。それにもましてグラビアアイドル役の小泉萌は水着姿も美しく、いじらしい女心を演じて切なかった。演出が「ペピン結構設計」となっていて、これまで作・演出も兼ねていた石神夏希ではない。メンバー全員のアイデアを出し合って作った結果がステージに現れたのだろう。

 ペピンの舞台をみるのは今回初めてだったが、評価は高い。1999年に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの学生を中心に結成。翌2000年から本格的に学外活動を始め、02年「東京の米」で作者の石神夏希が第2回かながわ戯曲賞最優秀賞を受賞。若手演出家コンクール2002奨励賞も受け、今年2月に東京・池袋で開かれたリージョナルシアターに出場するなど、売り出し中の劇団、作者だった。

 しゃれたシーンもあれば、切なくなる場面もある。お客の来ないコンビニで出入りのチャイムが頻繁に鳴り響くきらいはあるけれど、謎の仕掛けも心得た台本に優れた演劇的才能を感じる。これからどのような作品が誕生するか、楽しみになった。
(北嶋孝 2004.8.26)

「ポエムの獣」
■作  石神夏希
■演出 ペピン結構設計 http://pepin.jp/
■出演 井上知子 岡本祐介 小泉萌 小林悠 吉田能 石神夏希
■日時 2004年8月19日(木)-22日(日) 各回18時開演 全4公演
■会場 BankArt1929馬車道 http://www.bankart1929.com

Posted by KITAJIMA takashi : August 27, 2004 05:38 PM | Trackback
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