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May 27, 2005

蜷川 幸雄演出/大竹しのぶ主演『メディア』

 東京・渋谷のシアターコクーンで、蜷川 幸雄演出/大竹しのぶ主演『メディア』が上演されています。5月6日-28日の長丁場。いよいよ終盤に差し掛かっていますが、演劇記者の山関英人さんから蜷川さんへのインタビューを踏まえた劇評が届きました。ご覧ください。

◎女の生理で演出を一新 大竹しのぶの『メディア』

 蜷川幸雄の世界デビューとなった作品『王女メディア』。ギリシャでは、1983年、アテネにあるリカヴィトス劇場で上演され、当時、ギリシャ以外の国の人間が同地でギリシャ悲劇を演じるのは有史以来、と言われた。今回は、演出を一新し、「男の論理」に対する「女の生理」を前面に出した。28日までシアターコクーンで上演されている。翻訳も新しくして、題名も『メディア』(賢い人という意味)に改変。男性だった主役とコロスを、全員女性に入れ替えた。

 この物語は究極の、女による復讐劇である。母親が子殺しをして、夫に復讐する「最高の悲劇」で終幕を迎える。その母であり妻である役を演じるのは大竹しのぶ。「翻訳劇の文体を、日本人が生理的にも違和感を持たないでやれる女優」として蜷川は高く評価している。

 大竹の身体には「最果ての地から連れて来られた異民族」を象徴する刺青が施され、衣装の右半身には綻びが目立つ。その露わになった太ももが白く光って、生々しい。短くした頭髪は「2人で相談した結果」(蜷川)であり、この場合も異民族を意識した。「坊主にする」ことまで検討したという。

 印象に残ったのは外見だけではない。淀みのないことばの連続は音楽を奏でるようで心地よい。怒りを含んだ台詞からはエネルギーが迸り、全身を粟立たせる。叫びの声は重みを伴って、観客席に響いた。

 一方、コロスの装いも目を惹いた。子を背負う母親のようであり、孫を背に乗せた老婆のようでもあった。蜷川は「男は観念でしか子どもと接しないけれど、女は生理で関わる。へその緒で繋がってたんだからね。そういうことも含めて、子どもを抱いているということは、一番本質的に、『メディア』という芝居の中ではいいかな」と思ったという。ただ、母親であり老婆でもあるのは「複雑にしたかった、女性の存在をね」という狙いもあったようだ。

 舞台全面に張られた水からも母性が窺えた。羊水を想像させ、胎内を意識させる。それが決定的だったのは、幕切れに舞台後方にある扉を「開門」し、シブヤの空気を劇場に取り入れたことである。2500年前の作品世界と現代の連続性を想起させるとともに、最高の悲劇があろうとも、人は産み落とされ、生き続ける、という宿命を意識せずにはいられなかった。

 扉の開放を決めたのは初日の前日だった。そのために「さまざまな苦労をみんなに強いた」という。せっぱ詰まった中、その作業のために、5時間ほどの遅れが出た。そうまでしたのは「かつての『メディア』より俺は進化しているか」という蜷川自身の問いであり、「自分自身への闘い」だった。その答えは「すべて舞台にある」。〈文中敬称略〉
(山関英人・演劇記者)


[上演記録]
蜷川 幸雄演出/大竹しのぶ主演『メディア
(東京・シアターコクーン、2005年5月6日-28日)

【スタッフ】
作: エウリピデス
翻訳:山形 治江
演出:蜷川 幸雄
美術:中越 司
照明:原田 保
衣裳:前田 文子
音楽:笠松 泰洋
音響:井上 正弘
ヘアメイク:佐藤 裕子
振付:夏貴 陽子
演出助手:井上 尊晶
舞台監督 :小林 清隆

【キャスト】
メディア: 大竹 しのぶ
イアソン:生瀬 勝久
クレオン:吉田 鋼太郎
アイゲウス:笠原 浩夫
メディアの乳母:松下 砂稚子
守役:菅野 菜保之
報告者:横田 栄司
コロス :市川 夏江/土屋 美穂子/井上 夏葉/江幡 洋子/羽子田 洋子/難波 真奈美/スズキ マリ/太田 馨子/関根 えりか/栗田 愛巳/坪井 理奈 ほか

Posted by KITAJIMA takashi : May 27, 2005 09:54 AM | Trackback
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