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August 10, 2004

宮本亜門演出「ドン・ジョヴァンニ」

 今年7月末に東京文化会館で行われた宮本亜門演出の「ドン・ジョヴァンニ」公演について、長文の評が寄せられました。欧米の演出家はドラマだけでなく、オペラを手掛けることは珍しくありません。このサイトではちょっと異例ですが、演出の問題に焦点を当てた力作ですので掲載することにしました。
 筆者の嶋田直哉さんは1971年生まれで現在横浜市内の私立中高教員。歌舞伎、文楽、能からストレートプレイ、バレエ、オペラ、舞踏など「ジャンルを越えた上で〈身体〉と〈政治〉を演劇的視座で考察してみたい」とのことでした。

モーツアルト「ドン・ジョヴァンニ」(東京文化会館 2004/7/22~25)
指揮:パスカル・ヴェロ
演出:宮本亜門
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団 
合唱: 二期会合唱団
主催:二期会オペラ振興会

 オペラが演出の時代といわれて久しいが、そのような意味での「演出」に出会うことなんて滅多にない。しかし宮本亜門が昨年の「フィガロの結婚」に引き続き今回手がけた「ドン・ジョヴァンニ」はこのような意味でまさしく「演出」されたオペラであった。

 作品としての「ドン・ジョヴァンニ」を考えれば、レポレッロが歌う「カタログの歌」に代表されるように、女を口説いて回る色事師の滑稽さがどうしても前面に出てしまうのだが、この舞台はその滑稽さを敢えて回避し、あくまでこれが現代の物語であることを強調した。例えば「カタログの歌」ではそれぞれの国で口説き落とした女の数をレポレッロがいくつもの携帯電話をかばんから取り出すことで示すのだし、無邪気な村娘ツェルリーナと、その婚約者マゼットは麻薬中毒のヤッピーとして描かれ、毎夜狂ったようなパーティーが打ち上げられるといった設定だ。このような設定について宮本は現代の人々が愛に飢え「心枯れすさんでいる」風景を描きたかったとインタビューで語っている。

 実はこのような設定には1990年代のピーター・セラーズの演出が先立つものとしてあって、そこでもやはり舞台は90年代のニューヨーク、ドン・ジョヴァンニも麻薬中毒者として登場したのである。

 その流れを考えれば舞台を現代のニューヨークにして、スーツ姿の歌手が登場するなんて今となってはさほど驚くに当たらない演出なのだが、問題はこの演出が明らかに9・11以降を視野に入れている点だ。ニール・パテルの舞台装置は瓦礫で荒廃したニューヨークを描き出す。イラクの惨状を日常的に見せられているわれわれにとっては既に過去のものになろうとしている光景だ。宮本の「ドン・ジョヴァンニ」はここから始まる。

 第1幕冒頭で起こるドン・ジョヴァンニによる騎士長の殺害は単なる殺害ではなく、新聞記者やテレビ・キャスターがドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオを取り囲むことによって無理失理なまでに〈復讐〉というテーマが紡ぎ出されてゆく。問題はそこに星条旗が介在する点だ。殺された騎士長はアメリカ軍人として星条旗に包まれて棺桶の中に収められ、オッターヴィオはスーツを脱ぎ捨て軍服に着替え、星条旗を片手に名アリア「今こそ、私のいとしい人を慰めに行って下さい」を歌い、〈復讐〉を誓う(第2幕)。幕を追うごとに「アメリカ」が舞台全面に押し出されていく。

 第3幕のジョヴァンニ邸でのパーティーではホームレスを相手にケンタッキーやハンバーガーといったいかにも「アメリカ」なジャンク・フードが登場する。そして最後は通常ならば騎士長の化身である石像によってドン・ジョヴァンニは地獄へ落とされるのだが、ここでは新聞記者、カメラマンに囲まれ〈復讐〉を誓ったオッターヴィオにいとも簡単に射殺されてしまう。〈復讐〉は遂げられ、「悪人の末路はこの通り」とオッターヴィオをはじめとする人物は高らかに歌いだすのだが、彼らの手には誇らしげに星条旗がはためいている。かくして「アメリカ」は「悪」に勝利したのだ、と思わせたその瞬間、舞台奥、地獄に落ちたはずのドン・ジョヴァンニの手から一片の白い羽根が落ちる。

 あの9・11を髣髴とさせる瓦礫のなかでこの作品を観つづけると、結局この作品で「アメリカ」が戦っている相手がわからなくなってくるのだ。宮本はドン・ジョヴァンニを愛が枯れ、すさんだ現代に舞い降りた堕天使として考えているようなのだが、それが成功したかどうかはさておき、どう考えてもドン・ジョヴァンニはテロリストでも、サダム・フセインにも見えてこない。ただ彼だけが17世紀風の服装で、あの瓦礫の中を彷徨う異様な光景は、まさしく「アメリカ」のナショナリズムの、ただ単に〈復讐〉だけを念頭に起き、星条旗を振り回すことでしか表明できない時代錯誤な姿と重なってくる。

 このように考えてみれば宮本には既に9・11以前にスティーブン・ソンドハイム作曲、ジョン・ワイドマン台本のミュージカル「太平洋序曲」の優れた演出(新国立劇場主催2000/10)がある。日本開国を主題にしたこの作品は、まさにオリエンタリズムを逆手に「アメリカ」そのものをパロディで脱構築する演出であったのだが、ここでもやはり天井に張り付く星条旗や開国を迫る「アメリカ」人にくるまれた星条旗は日本への侵略と威圧の象徴として用いられるだけでなく、さらにはその象徴を無にするパロディがねらいとしてあった。今秋この作品が「東洋人初」の演出という触れ込みでブロードウェイで上演されるという。大いに期待したい。

 最後に演奏について触れておこう。演出がこれだけ読み替えを打ち出しているにもかかわらず演奏はあまりにも歯切れが悪かった。ただドン・ジョヴァンニ役黒田博は宮本の意図をよく理解し、過度に滑稽になることなく「悪人」を表現した。凛々しい舞台姿はもちろん、歌唱は問題なし。特に第2幕、ラジカセを片手に歌う「ドン・ジョヴァンニのセレナーデ」は美しかった。
(嶋田直哉 2004/7/22)

宮本亜門公式サイト
二期会サイト「ドン・ジョヴァンニ」公演

Posted by KITAJIMA takashi : 11:42 AM | Comments (0) | Trackback

August 07, 2004

劇団相殺「含羞」・「箸をかまえて」

劇団相殺の初公演「含羞」「箸をかまえて」(7月6-7日、新宿タイニイアリス)をみた台湾の「無夢楼劇団」(Dreamless Theatre in Taipei)主宰者C・Janさんから英文の劇評が寄せられました。Janさんは台北大学在学中から演劇活動を始め、今年4月に、サルトルの「出口なし」をもとにした「悪戯 Itazura」を作・演出して劇団を旗揚げ。2003年に「榴華殿」の台北公演「月下美人」に姉の役で主演するなど日本との交流があり、現在日本で演劇の勉強中です。Janさんのサイトにも全文が掲載されています。

A Dirge Sang Only at Midnights--劇団相殺「含羞」「箸をかまえて」
by C. Jan (Dreamless Theatre in Taipei)


In Taipei, performances are better took place at weekends to make sure that
the audience have the mood to appreciate the artistic live. However, there
are various kind of plays, talk shows everyday in Tokyo, therefore Iam
always curious at what kind of theatre troupes and their audience will show
up on week days.

Chopsticks are set up or Have chopsticks like sword, performed by July 6th
Tuesday & 7th Wednesday, offers me an opportunity. About 19:20, I enter the
Tiny Alice Theatre and have myself seated. Perhaps it is because the
exhausting daily job, the atmosphere is like the dense fog, lazy and dizzy.
Well, you can also call this a type of relaxation.

Seems like the average age of the troupe isn’t pretty young, maybe the
theme and the sense of values through whole work prove this. The performers
are not few, and the stage-sets, lightings, sounds and projections are
appropriately placed though, which makes you feel even more hollow and
empty, like a dirge of white-collar ideology sang only at midnights.

What interests me is the sense of time through the performance. At the
middle of the play, I feel like it is over twelve o’clock at night and this
is a play only for spirits or phantoms, therefore I’d better remain low-key
in case they will catch me (laugh).

When my mind is somewhere else for a while, the reaction of other audience
draws my attention. Not sleepy, whether this is a good show or not, they
REACT. Obviously the play speaks for them in some way.

Although myself cannot find a tunnel into that world for I can hardly
understand Japanese, sure there are supporters for them. Well, isn’t this
one of the essential meanings of performance, to at least please the
audience?

Most of the time we allow the artists to ignore the voices of the audience
in the process of creating or presenting the artistic works, in order to
reach the pure originality.

However, if there is some experienced creator also creates a space for
audience within the performance - even only an abstract concept, probably
will earn the creator some different admiration.

Posted by KITAJIMA takashi : 01:03 PM | Comments (0) | Trackback

July 11, 2004

水と油「スケジュール」

海外でも評判の高いパフォーマンス集団「水と油」の公演「スケジュール」の国内ツアーが始まっています。6月末の東京・世田谷のシアタートラムを皮切りに、高知、大阪、名古屋、札幌、釧路を8月中旬まで回る予定です。「スケジュール」は、一昨年3月シアタートラムで初演。第2回朝日舞台芸術賞“寺山修司賞”を受賞しました。
 「ぱうる」さんが自分のblog 「うたうた」でこの公演を取り上げています。マイムを軸としたダンス・パフォーマンスに触れた驚きが率直に表現されていると思います。以下、ぱうるさんの了解を得て転載します。ありがとうございました。



schedule.jpe

2004年06月17日(木)    「スケジュール」 @シアタートラム  /  芝居
2002年初演。
初日。(6/27まで)
マイムと、ダンスともいえるようなパフォーマンスのみの一時間。

感想を一言でいうと「すげぇーなー!」
その身体能力、動きにまず驚く。スピーディーでスレスレな動きも逆にスローな動きも、どうしてこんなに、目の前で起こっていることなのに、自分の目を疑える。
よく見てないと、アレ?これいつの間にこうなったんだっけと、わからなくなってしまうよ。
メンバー四人が四人すごい高いレベルなもんだからむしろそれが普通に見えてきてしまったりして不思議。不条理なユーモアにも、すんなり自然に入りこめる。
言葉、セリフは一切なし。しかしそれはシチュエーション的にもないほうが自然だったり、動きだけで伝わってくるので気にならない。

他者の介入によって思惑通りに行かなくなる未来。状況は目の前でどんどん変化していく。
全体のベースとなるのは日常風景を舞台にありがちな出来事、四人のチームワークあってこその誇張表現。 のはずが次第に展開の「展開」が展開されてしまったり、頭フル回転でも追いつかず。圧巻の展開とパフォーマンスにただただ驚き、感動。すごい想像力とその実現力だわ。

一時間あっという間で、もっと見たい物足りないと、劇場出るまで思ってた私がバカだった。
当たり前の世界の認識を自覚する。
現実の世界の普通の出来事が、全て特別に見えてしまったりする始末。自分の身に降り掛かるこの公演の影響はけっこう大きかった。

モウモトニハモドレナイ。

「水と油」のwebサイト:
http://www.mizutoabura.com/

Posted by : 02:40 PM | Comments (0) | Trackback
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