演劇にはまだやれることがいっぱいある

インタビューランド #2  三条会・関 美能留  聞き手: 松本和也

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新生三条会の出発点

三条会 関美能留さん 松本 三条会は、今年既に4作品(「若草物語」「山椒太夫」「メディア」「ひかりごけ」)の上演を終えて、「S高原から」が8月に予定されています。こういうラインアップにふれつつ、今後の展開をお聞きしたいと思います。今年は、新作「メディア」が中心になるんでしょうか。他の人に聞いても、この作品で三条会はずいぶん変わったというか、変わった側面が色濃くある。作り手としても、これまでのラインとは明確に違った面を打ち出そうというねらいだったのでしょうか。
 作り手としても主体としても、旗揚げ当初、三条会のあり方が漠然とですけど頭の中にあって、自分の想像よりも早めにいろんなことがクリアできたと思っています。それでいまは転換期かなと思うところがあって、今年4月にアトリエも持ち、いままで使っていた大学内の施設からアトリエで稽古するようになりました。作品も稽古場によって随分変わってくるんです。そんなに意識してなくても、稽古場が違えば作品が変わらないわけはないと思いますね。6月に静岡で上演した「メディア」は、このアトリエで稽古した第1作です。稽古場が違ったからといって、これまでぼくがしてきた作業をないがしろにするわけではなく、どうすれば現代にギリシャ悲劇を立ち上げることができるかということを真剣に考えてきたわけで、ぼくが言うのもおこがましいですが、俳優も随分成長してきた。旗揚げ当初と比べると、場数も踏んでるし覚悟も違います。そういう中で、何ができるかもう一度考え直したいと思っています。そういうつもりで「メディア」を作りました。
松本 新生・三条会と言っていいんでしょうか。
 はい、そうですね。
松本 三条会はレパートリー制をとっているので、観客としては、2001年に初演した「ひかりごけ」を昨年末にみることができましたが、この作品は97年の旗揚げ以来の1つの集大成のような作品なんだと思います。だとすれば、2005年の「メディア」もまた、劇団にとっての転機をなす作品になりそうですね。
 「ひかりごけ」は、プロという言い方はおかしいかもしれませんが、これから演劇活動を本格的に始めていくぞという思いを込めた作品です。しかし、当時はまだまだ稚拙な部分もあったけれども、いまはそれなりに成熟したと思うので、そういう状況で何ができるのかを考えようというのが「メディア」ですね。

アトリエの「企業秘密」

松本 稽古場の話に戻りますが、今年の4月から三条会はアトリエ・稽古場を構えました注3。これは、前から自前の稽古場を持とうと考えていたんですか。
 持とうとはしていたんですが、千葉大学の居心地がよかったんですよ(笑)。 15年間大学の施設を使い続けられるというのは、よほど気を遣わないとできない作業ですけど、まあそれなりに気を遣いながら使い続けてきました。しかしいつまでもできるわけではないし、それに学内施設を稽古場にしてきたので、作品だけを作ってきたという感じがしたんです。演劇活動って別に作品作りだけじゃないんで、それで作品以外のこともしたいなあと考えたんです。それには自前の場所がほしい。でもあまり早くアトリエを持つと、独占欲が働いたりして活動が広がっていかない。いろんなことを冷静に判断できるようになってからアトリエを持ちたいと思っていたので、それまでは大学でいいや、みたいな気持ちがありました。ちょうど千葉市から賞ももらったことだし、そろそろいいんじゃないかと思って今年の4月、千葉市内にアトリエを持ちました。アトリエの維持のために、三条会の活動がちいちゃくなるのはいやなので、できるだけ大きなことがやれないかとは思っています。
松本 東京の演劇シーンをみていると、公演中心主義で回っているカンパニーがほとんどだと思うんですが、公演以外の演劇活動というと、具体的にどういうものが考えられるんですか。
 それは企業秘密ですね(笑)。ぼくは千葉を本拠にしたり最初に三島を取り上げたり、基本的にひねくれている人間なので、いままでやられてきたことを踏襲することもあまりないかな。あそこで、あんなヘンなことをやってるよー、という感じがないと、おもしろくないですよね。例えばここで千葉の人たちとワークショップを開くとか、ここを拠点に演劇フェスティバルを行うとか、それはもちろんやりたいし、やると思うんですけど、それだけではつまらない。それ以外の、だれもやったことのないことがやれればいい。という意味で、企業秘密(笑)。 >>


注3) 「アトリエをかまえてみた。」(関美能留、「現代演劇ノート~〈観ること〉に向けて」7月2日付)

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インタビューを終えて 関美能留 松本和也 / [参考資料] (7月25日掲載)