特別企画「振り返る 私の2004」

■第3回 ネットで芝居について何か書く、ということ  熊上みつみ (「X-ray」サイト主宰)

  ブログ人気の一環か、観劇日誌風のサイトも爆発的に増え、日々の巡回が間に合わないぐらいだ。嬉しい悲鳴といったところだが、年末にベストテンをアップされた方々の記事を拝読しながら、隔世の感を禁じ得ない。「色んな人が芝居を観ているんだな」という、考えてみれば当たり前のことだが、以前には感じなかった観劇者の「顔」が見える。ブログというツールがそうさせるのだろう、芝居とは無関係な日常生活の中に、芝居が溶け込んでいるとでも言うか。それぞれのベース、元々、映画(あるいは音楽、あるいは文学)フリークらしき人なら、得意分野に引き寄せた感想が興味深いし、芝居を観始めたばかりの学生さんが、何を観ても感動したり、知ったかぶりをするのが微笑ましく、役者さんの「役者でない日々」を伺うのも楽しい。

強烈な劇評に出会えない

 ネットの匿名性を笠に着た似非劇評家が横行する世界では、「年4~50本程度の観劇数で、何をか言わんや」と嘲笑を買うだけだが、衒うことない素人の感想の中に、ハッとさせられる一文を見つけることもある。

 チケット代が高い、自由度が低い(観劇日時の縛りがきつい)ことなどを原因に挙げ、観劇人口が映画ほどには多くないこと、増えていかないこと(サケが回遊するように、一部のオタクが周辺をうろついてリピートするばかり)を嘆く声を聞くこともあるが、2004年の盛況ぶりを見る限り、杞憂ではないかと思われる。

 一方で、目から鱗が落ちるように疑問が解決されたり、自らの感想がすっかり塗り替えられてしまうような強烈な劇評には、なかなか出会うことができない。fringe「注目のウェブログから」で批評系に分類されるサイトでも、観客系、マルチ系との差異をみつけるのは難しい。速報性、おしゃべりをするように平易で軽い文章が持ち前のブログには、注意深く何度も読み返すに足る、ずしりと分量も重みもある文章を求めること自体、間違いなのかもしれない。

 そんなことを思ううち、Wonderlandが8月にオープン。常連執筆者を複数名置き、ウェブリング(個々人が書いた同一公演に対する評を集め、並べて読めるようにしたものなど)とは一味違った劇評サイトの誕生と喜んだが、これまでのところは、期待したほどの書き下ろしがなく、残念ながら「サイト紹介のサイト」に留まってしまっている。リニューアルを予定されているとのこと、今後の展開にも注目している。

書けないブロガー

 とまあ、偉そうに一説ぶっている私はといえば、「書けないブロガー」の1人である。
  1月2日の初春大歌舞伎に始まり、12月29日のクロムモリブデン「ボウリング犬エクレアアイスコーヒー」で2004年を観納めた。ざっくり数えて110数本。1年を52週として、平均すると週2本以上。アンケートに「あなたの観劇頻度は?①年数回、②2~3カ月に1回・・・」と出題されれば、選択肢の最後にマルを付けるこの数年であるが、ある時期には目標でもあった100本が、大幅に超えてしまえば、観劇以外に何もしていないことの証拠を突きつけられたようで、恥ずかしさを覚えたりする。

 学生時代から芝居を観るのは好きだったが、「趣味は?」と尋ねられて、臆面もなく「観劇」と答えるようになったのは、100本を超えてからだ。97年あたりまでは、「シアターガイド」を文字通りのガイドに、TVや映画で既に知っている俳優が出演するからとか、原作を読んだことがあるからとか、自分なりの「観る理由」がまずあって、前売券を購入し、とても晴れがましい気持ちで公演当日を迎えた。観劇後も、音や光など、脳裏に焼きついたシーンを反芻し、同作の映画版を見たり、関連する本を探したり、たっぷり、ゆっくり、1本の芝居を味わい尽くした。

年間の観劇291本

 一変したのは、PCを購入してからだ。一度や二度なら付き合ってくれる同僚もいたが、自分ほどにはのめりこんではくれないもので、ひっそりと隠れるように楽しんでいたことが、ネットに繋いでみれば、世の中にはこんなにも沢山の観劇ファンがいるということにまず驚き、忘れかけた頃にレビューが掲載される月刊誌を待たずとも、観たその晩には、他の人の感想が読めることに仰天する。

 溢れる情報に常に刺激され、「観たい」「観たい」と、まるで発情期の犬のごとし。98年には76本だったのが、99年には倍の159本、2000年には226本。備忘録としてのHPを立ち上げる。数を観ることが目的となって、3日と空けずに劇場通いの日々。脚本やパンフレットを買っても、目を通す暇もない。生業を無視して予定を詰め込み、残業で高額チケットを無駄にしたり、ダブルブッキングが頻発したのもこの頃だ。

 観劇オフで知り合った人たちとは、顔を合わせれば「減らしたいね」が挨拶替わりだったが、朝早くから待合室に集う老人たちの病気自慢のようなもので、重症なほどエライというものでもないだろうに、自分の興味の有無に関わらず、マスで話題の公演はひととおり押さえた上で、新規開拓=ブレイク前の無名劇団のチェックも怠らず、「小劇場NOWを語りたい」などと思ったら、100本に欠けることなど考えられない。01年246本、02年291本と、大脳皮質の異常は続く。

今年は書きます!

 しかし、毎週末を、マチネ・ソワレの梯子で過ごすことを何年も続け、疲れを感じないわけはない。いくら好きでも度が過ぎて、褻(け)にしてしまったのは自分なのだが、晴れの気持ちを取り戻して、ずしりと来る何かを書きたいという想いが募る。

 03年、経済的な環境の変化も手伝って130本まで落とすことに成功。04年110本。さて、05年は? 勢いに任せて100本の壁を突き破るのは簡単だったが、「観るのが忙しくて書けない」という言い訳にしないために、ぐるっと廻って戻ってきた感じだ。今年は書きます! (2005.1.08)

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