特別企画「振り返る 私の2004」

■第4回 私的演劇の追想   鈴木麻那美 (「うたうた」サイト主宰)

小劇場の「謎」

 私は演劇に対して、たいした知識も考えも持ち合わせてていないけれど、ただ、演劇っておもしろいじゃん、と思った時点から、興味・好奇心ばかりで小劇場に足を運んでいます。

 例年なら演劇はワンシーズンに1本観ればいいところを、2004年はなんだかいろいろとふらふらしたり、いろいろな縁があったりしているうちに年に数十本もの演劇を結果的にみていることになり、自分でも驚いています。
  でも、まだまだわからないことがいっぱい。

 一般的に、映画や音楽や美術なんていうのは、誰の~ジャンルは~どんな感じの~、とかいう前知識があるだけで、それがおもしろくてもつまんなくても娯楽として受け入れられてしまうものだけれど、演劇っていうのは今のところそんな流れがないように思う。特に小劇場はマイナーなイメージが強い。少なくとも、例えば映画でいうところのミニシアターほどのメジャー感はない気がする。

 マイナーで、情報量や知名度が低いために、敢えて人を誘いにくいっていうこともあると思う。その上、慣れない人が外からみるとぜんぜん想像できないもので、小劇場の中で何が起こっているのか、困ってしまうくらい、謎。一体あの中では何が起こっていて、何をしなければならないのだろう(大抵はただ観てればいいだけなんだけど)、とか、未知の世界に対する不安要素がいっぱいあるものだと思う。しかも、その情報量が少なければ少ないほど、上演劇場や宣伝の規模が小さくなればなるほど、「謎度」が上がる気もする。個人的には、最初そんな流れでここも「Wonderland」という名前なのかなあと思ったら、なんかそうでもないようでした。

トンデモナイ演劇体験

 話がそれました。とにかく劇場という限られた空間の中、その場を補う、また作品から感化されるための観客の想像力も不可欠でしょうし、普通に映画館なんかに行くよりエネルギーは使うかもしれない。いろいろな舞台があるけれど、いい作品ほど、ただぼーっと眺めていておもしろいというものではないと、今は思うので。値段の方は、安く観れるものから、なんかこれ高くない?っていうものまで、かなりバラつきがある。だからといって、高ければおもしろいというものでもない。また、たくさん人が入っていればおもしろいということでもない。演劇の妙。妙なとこ。

 また、どんな舞台か、事前に与えられる情報はホントに少ない、ほとんどないのも妙なとこ。観てみるまでわからないっていうのは、前情報がない分、その作品が素晴らしければ素晴らしいほど感動も大きいし、それはそれでおもしろいものだと思う。けど、その作品が自分にとって理解を示すことができないものだったら、結局観る前よりもわからないと思う要素を増やしてしまうことになったりする。時間もお金も死ぬほどあったらそんなこと気にしなくていいけど、そうもいかない、難しいなあと思う。

 毎日、毎週、めまぐるしく、それこそたくさんの劇団が公演をしていて、どれが一体おもしろいのか、自分の興味にはまるものはあるのか、その見分けをつけることは、実際に観てみるまでできないことかもしれない。でも、今まで小劇場に足を運んだことがない人も、人の評価や感想を参考にしたりして、是非一度はおもしろい舞台に触れてほしい、と思っている。びっくりするよ。あ、興味がない人はこういうところは見ないのかな。こんな文章読まないのか。どうなんでしょう。いま自分の自覚のなさにびっくりしてます。

 小劇場の表現というは、演劇という昔からあるものの中にありながら、新しい表現は他のメディアよりも斬新で、それがうまく観客とリンクできたとき、すごく貴重な体験として自分の中に残っていく、おもしろいものだと思う。テーマの根底はどうしても、暗く重いものが多いけれど、上手くいっている作品は、その地点をポーンと軽々飛び超えて、別の世界を覗かせる。価値観や考え方をガラリと変えてしまうチカラを持った舞台に出会えれば、それまでとは全く違った世界の見方ができるようになってしまうのですから。こういうことは他のメディアではなかなか起きないことなのだけれど、いろんなものを観ていると、時々そういうトンデモナイところに連れて(置いて)行かれるような体験ができてしまう。それもやっぱり密な空間、近い距離でコミュニケーションをとるからこそ、できることなのかもしれない。

語らず語ったバグダッドの人たち

 2004年の総括ということで、とりあえず、観たもので印象に残るもの。素晴らしい作品・劇団、いろいろあったけど、今、この時にという意味で忘れることができないのは、バグダッドの劇団「アル・ムルワッス」の公演。今だって日本に戦争を語る演劇は、きっと数多く存在していて、いかにもそれが真実味帯びているように観せられることが多いんじゃないかと思う。でも、演劇だから、「っぽい」ことは語るかもしれないけど、本当は本当じゃない。

 彼らは1部でフォークダンスを踊り、2部でマイムパフォーマンスを行った。(1部には歌があったけど)言葉を使わずに閉塞的な状況を、時に明るくコミカルに伝え演じる姿は、本当にあのバグダッドからきたのだろうか、そしてそこに帰っていくのだろうか、と疑えるほどでした。言葉や文化は違うけど私たちとそう変わらない、全く普通の空気を持った人たちのようで、こんな普通の人たちが戦争に巻き込まれてしまっているなんて考え難かった。本当にわからない。どんな言葉で語るより、その存在を目の当たりにすることが何より雄弁に語ってしまうことって、ある。

 それと2004年はお笑いブームでしたね。演劇もお笑い・コントも要は一緒。「野鳩」をはじめ、おもしろい笑える劇団があったのも発見でした。お笑いブームに乗れそうな気がしなくもないので、がんばってほしいです。

  2004年の総括というより、私的な意見をウダウダと書いてしまいました。2005年はどんなとんでもないものと出会うことができるのでしょう。楽しみです。(2004.12.30)

 

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