演劇にはまだやれることがいっぱいある

インタビューランド #2  三条会・関 美能留  聞き手: 松本和也

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三条会 関美能留さん  三条会の関美能留さんが作り出す舞台は、内外で高い評価を得ています。昨年(2004年)BeSeTo演劇祭の最終日に上演された「ひかりごけ」は圧倒的な熱気と拍手に包まれ、今年の「 Shizuoka 春の芸術祭 2005 」で上演されたギリシャ悲劇「メディア」も斬新な演出で話題となりました。このインタビューでは、近現代や古典作品を取り上げ、俳優の身体を通して「いま」との遠近と共鳴を舞台化する、注目の「演出」に迫ります。聞き手は、三条会の舞台にいち早く注目、評価してきた松本和也さんです。 (北嶋孝@ノースアイランド舎)
  【写真=関美能留さん】

旗揚げは三島作「熱帯樹」

松本 本日は関美能留さんに、三条会の演劇について様々な角度からお話をうかがいたいと思います。具体的には、結成のいきさつから始めて、作品づくりの具体的な中身─どういうふうにして三条会の舞台ができていくのか、その実際の作業や理論的な裏打ちなどをお聞きしたいと思います。まず結成当時のことからお聞きしたいのですが、結成は1997年で、その前は学生劇団ですよね。
 そうですね。千葉大学で演劇活動を始めました。
松本 東京ではなく千葉での旗揚げというのは、当初からある程度戦略的だったのですか。
 ぼくは90年に千葉大学に入学したのですが、3年で中退しています。旗揚げした97年まで在学していたわけではありません。ただその間、演劇部の顧問のような役割をしていて、3年生、4年生を集めて公演していました。しかしこのままではまずい、本格的に活動してみようじゃないかと考えて97年に千葉で、「熱帯樹」(三島由紀夫作)公演で旗揚げしました。当時は千葉で旗揚げするというヘンな人はいなかったし、三島由紀夫作品を上演しようというヘンな人もいなかった。先輩たちの後追いではなく、まあ、最初のうちはこういうことをすれば珍しいんじゃないかという気持ちもあって(笑)違いで売っていこうという部分もありました。そういうもんだと思いますよ。
松本 劇場の数からしても、関東圏では東京が中心的なシーンですから、97年という時期を考えればなおのこと、これは断然ユニークに感じます。立ち上げる時から、ある程度決まったメンバーだったんですか。
 三条会という名前で旗揚げしましたが、続くのかといったらまったく分からない。三島の「熱帯樹」もやれるのかどうか、それもやってみないと分からないので、いまから考えるとお客さんにみせるレベルじゃなかったかもしれないと思うし、三島由紀夫って何?というような、正直言うと勉強の時期だったんじゃないかという感じはありました。
松本 いまとは内容的にも質的にも、ずいぶん違うということですか。
 違いますね。ともかくでっかい声で、長いせりふを、思い切り言ってみよう、という世界ですね(笑)。
松本 なるほど、若いですね。その後の演目はなかなか興味深いものが揃っていておもしろいですね。「人でなしの恋」(江戸川乱歩)「憂国」(三島由紀夫)「藪の中」(芥川龍之介)や「癩王のテラス」(三島由紀夫)などがあるのですが、ここで話題を「利賀」に移しましょうか。利賀では日本でも希有な演出家コンクールが毎年夏に行われていて、三条会というか関さん向きだったと思いますが、第1回(注)に参加したとき取り上げたのは「棒になった男」(安部公房作)でしたね。ご自分では、出来栄えはいかがでしたか。
 97年から2000年までは千葉市内だけでずっと活動してましたから、身内というか学生の名残もありましたし、お客さんも学生のときの知り合いが多かったので、社会人になってだんだん回らなくなるかもしれない、ともかく外に出てみようという気持ちがありました。でも外に出るってどうすればいいのかと頭を悩ませているときに、演出家コンクールができたというし、ぼくは利賀村には通っていた時期があったので、ぼくが外に出るという意味ではこんなによい機会を提供してくれるコンクールはなかった。最初のコンクールで審査員の方々にいろいろ言われて、それはいちいち自分の視野の狭さを実感できましたし、まあ腹の立つこともありましたが(笑)それでも外に出るというのはこういうことかと勉強になりました。
松本 作品についての、外側というか他者からの視点、という意味ですか。
 そうですね。「棒になった男」を上演するに当たって、安部公房がそんなにも好きだというオジサンたちがいるということも知らなかった(笑)。こんなところで活動していたら、安部公房が好きだというような人には出会わないですよ。それが、ぼくの好きな安部公房をこんなにしちゃってというような人がいましたので、ああそうか、安部公房の戯曲にこんなことしちゃいけないんだ、でもいけなくてもやるけどね、みたいな(笑)。そういう人たちとの出会いはありましたよね。
松本 自分達としては提出するものは提出して、切磋琢磨の一つの過程だったということでしょうか。
 そうですね。>>


関美能留(せき・みのる)
1972年、埼玉県上尾市生まれ。千葉大学園芸学部園芸学科3年次中退。1997年に千葉市を拠点に自らを主宰として「三条会」を旗揚げする。全作品の演出を行う。受賞歴に利賀演出家コンクール2001最優秀演出家賞、第3回千葉市芸術文化新人賞がある。千葉市稲毛区在住。
三条会webサイト:http://homepage2.nifty.com/sanjokai/

松本和也(まつもと・かつや)
1974年、茨城県取手市生まれ。立教大学大学院文学研究科博士課程修了、博士(文学)。専攻は日本近現代文学。近年は平田オリザや三島由紀夫の戯曲についての論文も発表。今年から、ブログ「現代演劇ノート~〈観ること〉に向けて」を始め、現代演劇の劇評を中心に原作戯曲や演劇評論なども論じている。
ブログ「現代演劇ノート~〈観ること〉に向けて」:http://matsumoto.blog4.fc2.com/
主な三条会公演のレビューは次の通りです。
 ・『ひかりごけ』松代公演(2005.7.17.)  ベセト演劇祭公演(2004.11.23.)
  ・『メディア』(2005.5.21.)
  ・『若草物語』(2005.2.18-23.)
  ・『山椒太夫』(なぱふぇす2005 2005.3.20.)
  ・『女の平和』(2004.10.15-17.)
  ・『夢十夜』合同公演(2004.8.6-8.)
  ・『班女・卒塔婆小町』(こまばアゴラ 2004.6.10-13.)
  ・『幸福の王子・サロメ』(2004.2.13-18.)
  ・『ラ・ロンド』スパーキング21・合同公演(横浜・STスポット2003.10.30-11.3.)


目次: 旗揚げは三島作「熱帯樹」 / 鈴木演出のすごさ / 「ひかりごけ」で最優秀演出家賞 /本番の雰囲気をつかみながら / 企画公演で教えられる / 文化芸術新人賞の説得力 / 見えにくい演出 / 主宰は経営者 / 読解は俳優の身体を通して / ある一瞬のために協力 /舞台空間は現場から、衣装は俳優が / 「邪魔するもの」としての音楽 / まず俳優を見てほしい / 「ひかりごけ」はどのように「演出」されるのか / 舞台作品の「歴史」 / ト書きは「挑戦」 / 新生三条会の出発点 / アトリエの「企業秘密」 / 元気出していこうよ /
インタビューを終えて 関美能留 松本和也 / [参考資料] (7月25日掲載)