演劇にはまだやれることがいっぱいある

インタビューランド #2  三条会・関 美能留  聞き手: 松本和也

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見えにくい演出

三条会 関美能留さん 松本 では千葉市に「芸術家」と認められた(笑)関さんの演劇作りというか、演出の話に入りたいと思います。いわゆる演劇というと、登場人物がいて、ストーリーがあって、作中人物を一人の俳優が演じて、その人物に成りきって、感情なりドラマなりを生きる、再現するというのが一般的な理解だと思います。いきなり直球ですが、今、三条会はどんな舞台作品を目指してるんでしょうか。
 そこがいちばん難しいと思います。どんな作品を作りたいか、事後的に言うとどんどんウソになっていく可能性があるので、いま現在ということで言うと、うーん、そうですね、集団との兼ね合いもあるので、最後にまとめた方がいいのでは…。
松本 そうですね。じゃあ、そうしましょう。まず演出からお聞きします。愚問かもしれませんが、演出という仕事をどう考えていますか。演出は見えにくくて、さっき言ったような一般的な演劇の理解では、お客さんからするとほとんど目立たないですよね。
 それはもう、ぼくは非常に怠け者なので、三条会に演出家は要らなくていいんじゃないか、そう思っています。というのは、俳優に台本を渡して、ぱっとやってみて、それがよければいちばんいい。でも、そうならないんですよ。そうならないので、演出するわけです。でも旗揚げのころに比べると、ぼくが俳優たちに言うことはあまりなくなってきたので、極力なくしていく作業をしているというところですね。
松本 となると、働かざるを得ない(?)演出家の関さんは、三条会の俳優にどういったものを求めているんでしょう。求めているというと変な言い方になりますが…。
 ぼくがなんかやれと言ってやったものは駄目なんですよ。例えば、努力しろと言って努力したって駄目。努力は勝手にしてくれという思いはありますよね。
松本 演技の場合、ここはこうだからこうしてくれと指示を出して、その通りに出てくると困るというか、つまらないということなんですか。
 うーん、価値観の共有と言うのかなあ。この辺はとても難しくて、俳優との関係においては例えば、いまいい感じだなあというときがありますよね。そのとき何か言ってもそのいい感じが壊れるし、また言わないとまた壊れるときもある(笑)。

主宰は経営者

松本 俳優との関係を創作の場でも気にしていて、それが演出という仕事の一部だという認識ですね。三条会という集団を考えたとき、職能としては演出-俳優となるかと思いますが、関さんは集団の主宰という立場でもあります。主宰と演出は別ですか。
 全然、別です。
松本 では主宰として集団はどう現れてくるのでしょう。作品を一つの目標にした場合、主宰としては集団をどのようにとらえているんですか。
 それはもう(主宰は)経営者です。俳優に給料を支払えてないので、ふつうの意味で業績はどうかと言ったら倒産ですが(笑)、主宰としては、これから集団が継続していく上で何が必要かを考えています。演出家としてのぼくは、その時々の作品との瞬間的な出会いを大事にしていますし、演出家としてはあまり長期プランを考えてなくて、主宰としてのぼくが長期プランを考えているということです。
松本 価値観の共有ということになると、俳優と演出の大前提でありながら実際にはなかなか難しいところだと思いますが、かなり早い段階から、メンバー間では一定の価値観の共有を目指し、その上での演出や芝居作りを考えていたわけですか。
 その価値観の共有も、意外に難しいんですよ。
松本 演劇的な価値観ですか、それとも実生活上の価値観も含めているのでしょうか。
 ほとんど感覚的なものなので、演劇に対してどう携わっていきたいと思っているのかとか、そういうことだと思います。やる気があるとかないとか、そういうレベルですね。そこを疑うと、仕事にならないですよ。 >>

目次: / 旗揚げは三島作「熱帯樹」 / 鈴木演出のすごさ / 「ひかりごけ」で最優秀演出家賞 /本番の雰囲気をつかみながら / 企画公演で教えられる / 文化芸術新人賞の説得力 / 見えにくい演出 / 主宰は経営者 / 読解は俳優の身体を通して / ある一瞬のために協力 /舞台空間は現場から、衣装は俳優が / 「邪魔するもの」としての音楽 / まず俳優を見てほしい / 「ひかりごけ」はどのように「演出」されるのか / 舞台作品の「歴史」 / ト書きは「挑戦」 / 新生三条会の出発点 / アトリエの「企業秘密」 / 元気出していこうよ /
インタビューを終えて 関美能留 松本和也 / [参考資料] (7月25日掲載)