演劇にはまだやれることがいっぱいある

インタビューランド #2  三条会・関 美能留  聞き手: 松本和也

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「邪魔するもの」としての音楽

三条会 関美能留さん 松本 あとは音楽ですが、一つの舞台作品で用いられる楽曲のジャンルが広くて、印象深い使われ方も多いと思うんですが、作品と音楽の関わりについてもお聞きしたい。
 音楽を随分聴き込んでいるのではないかとよく言われるんですが、そんなことはなくて、あまり聴いてはいないんです。とは言っても、喫茶店で流れてくる曲や、道を歩いて流れてくる音楽なんかは割に意識して聴いています。
松本 コレクターではない?
 そういうことはありません。自宅で収集して聴くことはまずなくて、耳に聞こえてきた音楽は、どういう曲で、どういう音楽家かということはよく調べますし、よくあることですね。芝居の中でBGMとしては使ってなくて、どちらかというと邪魔するものとして入れています。例えば、成りきるとか演じるとか、お客さんもその世界に入っていくとか、そういうことがあると思うんですけど、例えば三島作品を上演しているとき、せりふを言っているうちについ、成りきってしまうときがあるんですよ。そういう瞬間は、関係ない音楽をビューッと流しますね。成りきるな、みたいに(笑)。お客さんも盛り上がって陶酔してきたときに、まだ早いよという形で入れることがあります。もちろんBGMとして入れるときもありますが。
松本 演出として、流れの調節という意味があるんですか。
 それもありますね。あとはぼくの妙なこだわりですが、音楽はカットせずに全部使い切ります。
松本 それは珍しいですね。
 だから基本的にBGMじゃないんです。山口百恵をかけたりGLOBEをかけたり、ここでは山口百恵が入りましたということはちゃんとお客さんには伝えたい。クラシックは知識のある方が多いので、ちゃんと勉強しなきゃいけないんですが、それもまた楽しいですしね。
松本 作品の方向を、選曲から読まれかねないということですか。
 あそこであの曲がかかったというのは、ぼくとしてはあまり見どころ聞きどころではないんですけど(笑)。でも、それを見どころにしてくれるお客さんがあるということはぜんぜん構わないです。海外戦略を立てるときは、例えば長谷川きよしの音楽を使ったりしても、長谷川きよしってだれということでぜんぜん通用しませんし、クラシックを流すとしたらより怖い。そのへんはもっと勉強しなくちゃいけないと思います。
松本 「メディア」では、文字通り歌ったり踊ったりしてましたが、あれは踊りとして踊ろうということなんですか。それとも作品を作っていたら歌ったり踊ったりした方が自然、先ほどのお話のように、コンテキスト的にあり得るということなんでしょうか。
 踊りと言うとクラシックバレエのような踊りを想像するんですが、ぼくはせっぱ詰まったら踊りたくなるんじゃないかなあと思うんですよ。特に悲劇的なものを上演しているときは、いやあ、これは踊りたくなっちゃうよ、と感覚的には思うんです。だから踊りをみせるというというより、踊りたくなるという感じかな。現代は、場を与えられないと踊らない感じがあるので、場を得られなくても変な瞬間に踊りたくなる、そんな瞬間がぼくは好きなんです。

まず俳優を見てほしい

松本 三条会はよく、「様式」ということを言われると思いますが。
関 三条会という集団で、独自の様式を手に入れたいとはずっと思いまていますが、そうはうまくいかないんです。伝統芸能を取っ掛かりにして考えようと思っても、それを取り入れようとか、そういうことは考えません。まだ早いと思いますよ。いま取り入れちゃったら、すぐにいっぱいいっぱいになっちゃうと思うので、探しながらやってます。
松本 これは観客として、ということですが、三条会のキャスト表はちょっと妙なんですよね。いわゆる戯曲には登場人物がいて、上演する時には配役があって、俳優は1つ役をもらう、というのが一般的なんだと思います。ところが、三条会の場合は、例えば「メディア」だったら、キャスト表のメディア役のところに4人も名前が並んでいたり、1人の俳優の名前が複数のところにあります。舞台を見ればその通りなんですが(笑)、観客としては戸惑うところでもあると思うんですが。
 うーん。もともとの考え方として、いまのところは、榊原毅という俳優だったら榊原毅をみてくれ、大川潤子だったら大川潤子という俳優をみてくれ、というニュアンスが強いので、役目を生きることももちろん大事なんですけど、お客さんには、三条会の俳優は何かおもしろいなあとか、そういうところをみてくれればありがたいですね。
松本 俳優を見て楽しんでくれればいいということでしょうか。あとはそのために、演出という作業が入ってくるという感じでしょうかね。
 ぼくの場合は他の団体と違って、メンバーチェンジをしていないので、逆に作品によって変えていく。その辺を楽しんでもらいたい。ぼくの挑戦としては、なるだけメンバーを変えないで、しばらくやっていきたい。それはどこもやっていないことだし、なんとかやっていきたいと思っています。そうするには、集団に元気がなくなったら駄目ですが、作品を深化させ、いろんなことをしながら、役者も年々年を取っていくので、お客さんには1本みるだけじゃなくて、ちょっと続けて見てもらえませんかということはありますね。
松本 1作よりも2作目をみた方が楽しく感じられるということですね。それはぼくも実感でわかります。
 メンバーは替わらないですから、同じパターンも使いますが、それだけでは飽きてしまいます。違うことに取り組んで、あっ、こんなこともやってる、あんなこともやっているというとみてほしいですね。
松本 お客さんだけではなくて、三条会も一緒に発見しながら作っていきたいということですね。
関 ええ、そうですね。 >>

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インタビューを終えて 関美能留 松本和也 / [参考資料] (7月25日掲載)